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筋膜がないと体はバラバラになる?

最近注目されている「筋膜」。英語では「myofascia」です。
一方では「fascia」ともいいますが、これは広い意味での「膜」。膜には靱帯や関節包、腱膜、臓器包、支帯、脊髄硬膜、大脳鎌、小脳鎌、小脳テントなどの様々な組織が含まれます。

筋膜とは、筋肉を包む膜のことです。たとえるなら全身を覆うウェットスーツ。皮膚の下にウェットスーツを着ていることを想像すると、それが自由に伸び縮みして動けるなら、着ていて楽ですよね。けれど、固く縮んでいたり、どこかがシワになっていたり、傷ついていたりすると着心地もよくありません。

筋膜に置き換えると、日頃の生活でついてしまった体の癖や、ケガ・病気などが原因で、本来よく伸び縮みが可能だった筋膜が水分を失いフィットしなくなってしまいます。また、フィットしないだけでなく、体のある場所で発生した問題がコリや痛みなどの症状を引き起こすのです。

筋膜とは

筋膜は結合組織であり、骨や筋肉、神経、血管、臓器などをつなぐことが役割です。たとえば、筋肉線維の場合、単独ではバラバラになってしまいます。それらを束ねているのが筋膜であり、同様に骨と筋肉を、皮膚と脂肪をくっつけている存在が筋膜なのです。

もし筋膜がなくなると骨や筋肉、内臓などはすべて崩れ落ちてしまうといえます。体内の組織や臓器をあるべき位置に配置してくれる、いわば「第二の骨格」です。

5つの組織からつくられている

そんな私たちの全身を支えている筋膜は5つに分類することができます。皮膚の下の皮下組織にある浅筋膜、筋肉の上を覆っている深筋膜(腱膜筋膜)、筋肉の表面にある薄い筋外膜、筋外膜が筋肉内に入り込んで筋の束を包む筋周膜、その束の中で筋線維一本一本を包んでいる筋内膜です。

まず「浅筋膜」は皮下組織の脂肪層に存在し、四方八方に動くことが可能。ここには毛細リンパ管もあるため、皮膚と浅筋膜の滑らかな動きによって、むくみ防止などの役割があります。

むくみ

次の「深筋膜」は、さらに3つの層で構成されており、厚みは約1mm。縦・横・斜め方向からなる3層構造です。それぞれの層の間には、臓器と臓器、臓器と組織、組織と組織をつなぐ組織である「疎性結合組織」があります。併せてヒアルロン酸も存在。それらがあることで、体の様々な動きに合わせて深筋膜の各層が自由な動きが可能になるのです。

ちなみに疎性結合組織とは、様々な栄養素が臓器や組織の細胞に向かうための道。そこに存在する線維芽細胞はコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸をつくる細胞です。つまり、線維芽細胞が正常に働かないと、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸が体内でつくられず、また、栄養素が臓器や組織へ十分に届きません。それぐらい大切だといえます。

さらに、筋肉の表面にある「筋外膜」との間にも疎性結合組織やヒアルロン酸が存在。滑らかに動くことを可能にし、それぞれの筋肉による摩擦を防ぎます。そして、ヒアルロン酸は「筋周膜」や「筋内膜」の間にもあり、一本一本の筋線維の動きをサポートしているのです。

コラーゲンとエラスチンの関係

では、そんな筋膜は何からできているのでしょうか。

詳しく説明すると、細胞(繊維芽細胞、筋繊維芽細胞)や繊維(コラーゲン、エラスチン、レチクリン)、基質(グリコサミノグリカン、プロテオグリカン)、そして水分で構成されています。その中で大きな部分を占めるのが線維。特に、コラーゲンやエラスチンがほとんどで、筋内膜はほぼすべてがコラーゲンです。ただ、深筋膜にはエラスチンが少ないとされています。

ここでコラーゲンとエラスチンについて紹介します。
コラーゲンにはいくつかの種類があり、筋膜のコラーゲンはⅠ型です。軟骨などのⅡ型とは異なります。Ⅰ型のコラーゲンは体内に最も多く存在し、皮膚や腱、骨などもⅠ型です。

筋膜や皮膚、筋肉は外からの力が加わることで形を変えます。たとえば、何かにぶつかったり、引っ張られたり、圧がかかったり。また、脂肪の増加による変形も当てはまります。これらはコラーゲンによるものです。つまり、コラーゲンには体形の調整という役割があります。さらに、自由自在な変形ができるだけでなく、引っ張られた時の力に耐えることも可能です。

一方、エラスチンはコラーゲンと重なり合いながら存在し、自由に伸び縮みすることが可能で、元の形に戻すという働きがあります。たとえば、体に圧力がかかるとその部位は凹みます。その時にエラスチンは伸張。そして、圧力がなくなるとその部位は元の形に戻っていきます。これがエラスチンの役割です。それ同時に、コラーゲンが体を元の形に調整してくれます。

このことからわかるように、コラーゲンとエラスチンはお互いの働きによって体の形をコントロールしているのです。

筋膜をよい状態に保つ条件とは

さらに、筋膜には液体に近い状態に変化する「チキソトロピー」という性質もあります。筋膜に柔軟性が高くなると、筋膜はより液体に近い状態へと変化。だた、筋膜がそのような状態になるには、いくつかの条件があります。エラスチンとコラーゲンなどの繊維で形成された筋膜にあるゲル状の基質は、温度が上がるにつれて粘性は低下。逆に温度が下がるほど粘性は増加します。そのため、まずは熱が必要です。

また、そこに動きが加わることで柔らかくなることから、動きも重要になります。たとえば、運動前の準備運動は、体温を上げることで筋膜の粘性を高め、動きやすくすることにもつながるのです。さらに、筋膜に圧力を加えると、水和変化が起こって滑走性が増加するため、水和も条件になります。したがって、この条件を満たすことで、よい状態の筋膜を維持するができるのです。

準備運動

もし、日頃から運動不足であったり、長時間の悪い姿勢が続いたりすると、体の一部に不必要な負担がかかって姿勢がアンバランスになり、筋膜の動きが制限されます。また、その状態はケガの原因にもなり、筋膜をより悪化させることにもつながります。そうなると、筋膜がよじれて筋外膜のコラーゲンとエラスチンが偏り、それらを包んでいる基質の流動性が低下。筋膜は伸縮性を失い、自由に動けなくなる。

さらに、滑らかな動きをサポートしているヒアルロン酸も偏ってその効力を発揮できません。それによって、体のコリや硬くなって動きにくいということが起こるのです。

また、筋膜の上にある皮膚と、下にある筋肉も動きづらくなります。深筋膜は筋外膜の上に重なり、この深筋膜には筋外膜から一部の筋線維が入り込んでいるため、筋肉を包む筋外膜に問題が起こると深筋膜を通じて、他の筋肉にまで影響してしまうのです。また、それによって、筋線維一本一本の動きも悪くなり、十分な筋力や柔軟性を発揮できない。つまり、運動におけるパフォーマンスの低下やケガの誘発の原因になります。

痛みの根源は筋膜である

筋肉の約6倍の感覚神経をもつ筋膜。言い換えると、痛みというものは筋肉ではなく、筋膜で感じていることが多いのです。今まで筋肉の痛みだと思っていたものが、実は筋膜に問題があったということもあります。また、痛み以外の感覚も筋膜で感じています。

腰痛

また、筋膜に問題が生じた人は、関節の周囲に痛みを感じます。力を入れる時に筋肉が硬くなる筋外膜が原因なのですが、関節に痛みを感じるのです。その理由は、筋外膜や筋周膜、筋内膜のコラーゲンが平行に並んで腱に変形するから。筋膜の緊張によって腱が引っ張られ、同時に腱が関節を引っ張ることで関節に痛みを感じます。このように、筋膜に問題が起こると関節の周囲に痛みが現れますが、実際には関節自体に原因があるのではなく、筋膜が原因であることが多いのです。

とはいえ、筋膜が包んでいるのは筋肉だけではありません。骨や内臓、血管、神経など、体の中のすべての組織を包み、体の形をつくっているのが筋膜なのです。つまり、筋膜は体の表面を覆うだけでなく、体のあらゆるところに存在しています。

それらの筋膜は連結し合ってバランスを保っているため、筋膜の一部に支障が出ると、離れた部位にも影響を及ぼします。どこかの筋膜の機能に問題が起こると、その筋膜は水分を失って柔軟性が低下し、そこにつながる他の筋膜も同じ状態に。柔軟性を失った部位は痛みの原因となるのです。

筋膜の質は生活の質を左右する

私たちの体内で形成される様々な組織は、それぞれに分かれていても筋膜同士はつながっているため、どこかを痛めたり、硬くなったりすると違う場所に影響も。たとえば、首の筋膜が短縮すると背中の筋膜を伝って腰に影響を及ぼし腰痛を起こすことが考えられます。

それは、筋膜の機能に異常が発生すると、その異常を他の部分がかばおうとするからです。それによって広い範囲の筋膜に異常が波及。そして、筋膜自体が自らの力でほぐれることができなくなり、正しい姿勢や動作の維持が難しくなります。その結果として、筋膜痛をはじめ、筋出力の低下や柔軟性の低下、運動パフォーマンスの低下し、そして日常生活の質にも影響を与えてしまうのです。

私たちがもつ臓器や組織のすべてを包んでいる筋膜。筋膜が悪くなっていると様々な臓器や組織にも影響が出てしまうため、日頃から筋膜を意識して生活することが大切です。